
保育の中の医療、医療の中の保育:
赤ちゃん学から子どもの健やかな育ちと学びの場の保障のあり方を探る
2024年8月23日(金) 17:30 − 20:00(受付開始 17:00)
東京大学伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール
【注意】プレコングレスにご参加いただくには、参加登録(参加費無料)が必要です。
本参加登録は、8月24-25日に開催されます学術集会への参加登録とは別になります。
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開催趣旨
本プレコングレスでは、保育と医療の「交差点」となる三つの重要な領域:保育・幼児教育施設への医療的ケア児の受け入れ、保育中の与薬、そして病棟保育に焦点を当てる。まず、各分野の最新の研究成果や動向、実践事例を共有した後、医療、工学、心理学、社会学などの異分野研究を連携、融合させ、ヒトのはじまりである赤ちゃんの発達を科学的に解明しようとする赤ちゃん学の視点から、どのようにして子どもたちの健やかな育ちと学びの場を保障できるか、またそのための制度や政策のあり方はどのようなものかを、登壇者および参加者の議論を通じて探っていきたい。なお、本プレコングレスは東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センターと保育実践科学部会の共催として開催される。
企画
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)
日本赤ちゃん学会保育実践科学部会
オーガナイザ
麦谷 綾子(日本女子大学・准教授)
高橋 翠(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター・助教)
座長
野澤 祥子(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター・准教授)
指定討論
遠藤 利彦(東京大学大学院教育学研究科・教授)
講演1
演者
石井 悠(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター・助教)
土屋 昭子(宮城県立こども病院・保育士)
植木 茜(神奈川県立こども医療センター・保育士)
講演題目
病棟保育とはなにか?〜実態と実践のご紹介〜
講演概要
病院の小児病棟などで入院中の子どもを対象に行われる病棟保育は、実は、半世紀以上の歴史がある。1954年にはじめて病院に保育士(当時は保母)が配置されてから、保険点数が算定できるようになり、医療保育専門士という認定資格が整備されるなどして、その数は全国的に増えてきている。今年6月の診療報酬改訂でも、「子どもの成長・発達及び希望により付き添う家族等に配慮した小児入院医療体制の確保」という観点から、保育士の配置に対して加算される点数も上げられ、現在注目されている保育環境の一つといえる。病棟保育は公的な指針がないことなどにより現場にはさまざまな課題がある。しかし、不安や恐れなどネガティブな感情を経験することが多く、思う存分遊ぶことも、普段通りの「子どもらしい生活」を送ることも難しい病棟の中で、保育士が果たす役割は非常に大きいと考えられる。本発表では、病棟保育の実態について簡単に紹介した後、病棟保育の実践について現場の保育士2名から紹介を行い、医療を必要とする子ども、入院している子どもに対する保育の意味について、皆さんと議論したい。
講演2
演者
楢﨑 雅(社会福祉法人摩耶福祉会幼保連携型認定こども園るんびにこどもえん・施設長)
松本 雅敬(糸島市役所子ども教育部子ども課保育園・幼稚園係・主任主査)
講演題目
医療的ケア児の受入れにおける現状と課題 ~実践の場および制度的観点から~
講演概要
令和3年度の「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の施行に伴い、関連ガイドラインの策定や補助金事業化などと共に全国各自治体および市区町村において保育・教育施設への医療的ケア児の受入れが促進されている。近年増加傾向にある医療的ケア児の様相は様々であるが、どのようなこどもであっても規模の大小はあれど「こども集団」の経験はその成長に欠かせないものであることは疑いようがないのではないだろうか。国による制度化の後押しもあり、保育・教育施設を利用する医療的ケア児数は右肩上がりとなっており、受け入れ施設数も比例して増加傾向にあるものの受け入れるための様々なハードルがあることも現実的な課題として存在している。医療的ケア児の受入れにあたり、具体的なハードル含め現時点での実践の場からの報告および市において事業化するまでの背景やそれぞれが感じた課題などの話題提供を行い、他の登壇者および会場の参加者の方々と共に率直な議論を行いたい。
講演3
演者
柳 奈津代(東京大学大学院薬学系研究科・特任助教 / 東京都立大学人文社会学部人間社会学科 こども・若者貧困研究センター・特任准教授)
講演題目
保育所における与薬の実態と課題 ~よりよい保育のためにできること~
講演概要
健康な子どもが通うところと言われてきた保育所であるが、慢性疾患などにより服薬が必要な子どもも通っており、近年は医療的ケア児の受け入れも期待されるなど様々な背景を持つ子どもの育ちの場となっている。これまであまり話題にされてこなかった保育所における職員による子どもの服薬介助(与薬)であるが、与薬を引き受ける保育所では保育士が与薬業務に負担を感じている場合もあることが報告されている。本来の保育業務に与薬が加わったことによる多忙や人手不足、医療職ではない保育士の心理的負担、ヒヤリハット事例などが明らかになり、保護者による気軽な与薬依頼や、仕事の休みづらさから熱があっても薬を飲ませて登園させる等の現状、与薬業務によって保育が滞った事例なども示された。回避可能な与薬依頼を減らし、これまで以上に“必要不可欠な与薬”に限定することができれば、保育職員の負担軽減によって健やかな育ちの場が保障されるとともに、日中の服薬が必須な子どもへの安全な与薬にもつながることが期待される。本発表では、複数のアンケート調査から明らかになった保育所内与薬や子どもの健康が関わる課題について保護者の視点と保育施設の視点で整理し、薬の専門家である薬剤師による支援の可能性と合わせて報告する。保育所における保育と医療の関わりについて、よりよい環境のためにそれぞれの立場でできることを皆様と議論したい。